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2005年 06月 13日
「心理療法」というと、心の問題だけを扱うものと思われがちであるが、私はそうではないと思っている。以前新聞で、腹痛でやってくる子の9割は体に異常がなく、心因性だという事実に直面した医師の経験談を読んだ。感情が未発達な子どもは特にそうだが、大人でも、心の問題を心では感じられず、代わりに腹痛や頭痛、肩こり、じんましんなど身体症状として表現する人は多い。これは日本人を含むアジア人一般の特徴である。感情を表現することに慣れていない日本人にとっては、自分がうつで苦しんでいるという事実を受け入れるよりも、「体がだるくて起き上がれない」「頭痛がひどくて会社に行けない」と身体症状に転換してしまうほうが安全だからだ。
心は、見ないふりをしてごまかしながら日常生活を送ってゆくことがある程度までは可能だが、体は実に正直だ。何かストレスがあると、ちゃんとSOSを発信してくれる。 私自身の経験を話そう。日本を離れるまで、私は新聞記者として働いていた。ある地方支局で楽しく仕事した後、東京の本社に配属になった。木造のちいさな支局から高層ビルの一室にオフィスが移り、若い記者ばかり6,7人でのんびりと楽しくやっていた環境から一挙に何十人もの先輩に囲まれる職場への急激な変化。東京のテンポの速さとオフィスの利きすぎる冷房、今までとは比べ物にならないほど競争の激しい仕事のプレッシャーなどが一挙に襲いかかってきた結果、私は全身にひどいじんましんが出るようになってしまった。それも何というか、実に「便利」なじんましんで、日中気を張って仕事している時は出ない。深夜に帰宅し、ほっと一息ついた途端に全身に蚊にくわれたような模様が広がるのだ。そして翌朝、「さあ、仕事に行くぞ」と思うとすっきりと引っ込むのである。つまり私の体は、仕事の邪魔にならないような方法で、「ちょっとストレスたまってやしませんか」と警告を発してくれていたのである。 私はといえば、その警告を無視し続け、対症療法的に皮膚科からもらった薬を飲み続けていた。が、もちろん治るはずもない。なぜなら問題は私の皮膚にあるのではなく、ストレスで疲弊した心にあったわけだから。 一年間そんな生活を続けた後、私は思うところがあって退職した。その結果どうなったか?仕事をやめたまさにその日以降、まったくじんましんは出なくなったのである。もちろん薬なんかいらなかった。嘘のようなほんとの話だ。 からだって、本当にえらいのだ。こんなにえらいからだを心理療法に使わない手はない。皆さんもそう思いませんか?
by premacolumn
| 2005-06-13 10:01
| からだと心
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