|
2005年 09月 24日
今回はちょっと趣向を変えて、椅子の話。
札幌にカウンセリングルームを開いて半年が過ぎた。時の経つのは本当に早い。自分のセラピールームを立ち上げるのは、長年の夢だったこともあり、とても楽しい作業だった。特に楽しかったのが、部屋のインテリアを考えることだ。サンフランシスコのインターン先ではずっと、椅子と観葉植物の鉢がひとつ置いてあるだけの殺風景な面接室でセラピーをやってきたので、これでやっと私の思い通りの部屋が作れる!と、帰国が決まってからは寝ても覚めても部屋のインテリアを考えていた気がする。 アメリカでは、自分のセラピストやスーパーバイザー達のさまざまな個人開業のオフィスを見る機会があった。内装に気を使うセラピストの部屋と、そうでもないセラピストの部屋は、入った瞬間に区別がつくものである。もちろん、何より大切なのはセラピストとしての力量に違いないから、別にインテリアに凝る必要はないかもしれないが、セラピーというのは場の雰囲気も含めてセラピーであるから、部屋の雰囲気は悪いよりも良いに越したことはない。訪ねたことのあるオフィスの中でも、いくつかの部屋はとても印象に残っている。良いセラピールームというのは、照明が明るすぎず暗すぎず、いるだけでほっとくつろげるのに、部屋を出た後にあまり詳細を思い出せないような、とんがった主張のない部屋だと私は思う。私のスーパーバイザーの一人、シンシアの部屋もそういう部屋だった。彼女は、部屋の壁まで自分で塗ったといい、彼女のセラピールームは淡いオレンジの壁と、くすんだ色のソファと、たくさんの観葉植物やさりげなく置かれたアンティークの小物などが、何ともいえない安らぎを醸し出していた。でも部屋の詳細はよく覚えていない(笑)。 前置きが長くなったが、自分の部屋を整えるにあたって、一番頭を悩ませたのが、私が座る椅子をどういうものにするかであった。アメリカでは、どっしりした革張りの、かなり重厚な回転椅子にセラピストが座っているのをよく見かけた。確かにドクターがよく座っているような、権威あふれる感じの椅子である。しかし私は、あまり威圧感のある椅子には座りたくなかった。前にも書いたが、セラピーはセラピストが上からものを言ったり、アドバイスを与えたりする場所ではない。私ができるのは、クライアントの方と同じ場所に立って、二人で同じ方向を見ることだ。一人よりも二人の方がよく見えるので、クライアントが探しているものを、「あ、あそこに何か見える気がするけど、船かな?」「こっちの方角に島があるみたいだよ」などと、一緒に探すお手伝いをするだけだ。そんな自分に、威圧的な椅子が必要とはどうしても思えなかった。かといって座り心地は妥協したくない。カタログもいろいろ見てみたが、どうもぴんと来るものがない。 考えあぐねていた時、たまたま大阪でインテリアデザイナーをしている友人と話す機会があったので、北海道で家具を買うなら、どこがいいか聞いてみた。友人がすすめてくれたのは、ある旭川家具のメーカーだった。さっそく札幌のショールームに行って、そこにあった目ぼしい椅子にすべて座ってみた。その中で、座面が広く(私はよく椅子の上であぐらをかくので、座面が広い椅子の方がありがたいのである)、座高が低く(クライアントの方が座るソファと同じ目線にするため)、軽くて移動にも便利な肘掛け椅子を見つけた。椅子の張り地は、何百種類もの布や革から選べたので、いくつかサンプルの布を持ち帰り、毎日眺めつつソファとのバランスをいろいろ考えた結果、薄いベージュの布に決めた。家具をセミオーダーしたのなど、生まれて初めてである。 何週間か待ったのち、手元に届いた椅子は、予想通りしっくりとセラピールーム全体の雰囲気になじんでくれた。座り心地もいいが、何より何の変哲もない外観がいい。この椅子は以来、私の仕事の重要なパートナー役を果たしてくれている。今はまだ真新しいけれど、古いもの好きの私としては、私と一緒に年を重ねて、早く使い込んだ雰囲気にならないかなあと楽しみにしているのである。
by premacolumn
| 2005-09-24 09:53
| つれづれ
|
ファン申請 |
||